よく「最近の若者は常識を知らない」とか「あの人は常識をわきまえている」などと言った言葉を耳にします。
ここで使われている「常識」は、同じ意味なのでしょうか?前者は「最近の若者は一般的知識に欠ける」という風に言い換えることができ、後者は「あの人は思慮分別がある」と言い換えることができます。
このように「常識」という言葉の中には、「知識の常識」という要素と「思慮分別」、つまりは「道徳の常識」という要素が含まれているということです。
常識とは何?おまえ、常識がないと言われた・・・
常識の揺らぎ(知識の常識)
「釣れますかなどと文王そばに寄り」という江戸時代の川柳があります。
文王(ぶんのう)は、中国の周の国を建てた、武王の父「西伯昌」(姫昌)で、声をかけられたのは太公望(呂尚)です。
渭水で釣りをしていた、呂尚に文王が話しかけ、その博識や思慮深さを知り、自分の父(太公)が望んでいた人物だと知ったという史記の逸話がベースになっています。
今でもよく見られる釣り場の光景を、歴史上の人物にたとえた川柳ですが、江戸時代の人は常識的に、この状況を理解できたのでしょう。
しかし、現代人にすぐ理解しろと言われても、無理な話かと思います。江戸時代の庶民には常識であっても、現代人には常識ではないと言うことです。
次にタコについての常識はどうでしょう。
日本では古代からタコは重要な食料で、好きな人も多いでしょう。これは常識です。ヨーロッパでも地中海沿岸のラテン系諸国では、ソールフードだと言う国もあります。ここでもタコは食料だというのは常識です。
同じヨーロッパでも、アングロサクソン系やゲルマン系では、デビルフィッシュと言って嫌われます。これはタコに対する知識や習慣から来る違いだと言えます。
このように、常識の中の一般的知識は、時代による変化や習慣・風土により差があり、一定ではなく揺らぎがあると言うことです。
常識の普遍性(道徳の常識)
一方道徳の常識はどうでしょう。
これは先ほど書いた、文王や太公望の時代から春秋時代まで下りますが、孔子は論語の中で「己の欲せざるところ、他に施すことなかれ」(『論語』巻第八衛霊公第十五 二十四)と説いています。
これとは全く独立して、キリスト教の「マタイによる福音書」に、「だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これこそ律法と預言者である」(『マタイによる福音書』7章12節)との言葉が見えます。
ユダヤ教では、「あなたにとって好ましくないことをあなたの隣人に対してするな。」「自分が嫌なことは、他の誰にもしてはならない」と説き、ヒンドゥー教では「人が他人からしてもらいたくないと思ういかなることも他人にしてはいけない」(『マハーバーラタ』)と説きます。
さらにイスラム教でも、「自分が人から危害を受けたくなければ、誰にも危害を加えないことである。」(ムハンマドの遺言)との言葉があります。
驚くことに、宗教が違うにもかかわらず、非常に高い類似性が見られます。これは黄金律(ゴールデンルール)と呼ばれているものです。
人間が、社会的な生き物としての営みの中で到達した、一つの道徳の常識と言えるのではないでしょうか。
もう一度「常識とは」
常識というのは、時代や地域等によって変化する部分と、人類が持つ普遍性を表す二面性があると言うことに、着目していただきたいと思います。
その常識と言う言葉を、あまり深く考えずに使う人がいます。「こんなこと常識じゃない。こんなことも知らないの?」という言葉にたじろいだ経験はありませんか?
単に常識と言われると、「誰でも知っている一般知識」と解釈してしまいがちですが、上に書いたように、それには揺らぎがあります。
つまり普通、人が使う常識とは自分と自分の狭い交友関係の中での常識であって、決して普遍性のあるものではないと言うことです。
それより深い意味があったとしても、そう言うことが「傾向としてある」と言った程度の意味だと考えておいた方が良いでしょう。
しかし、常識の意味をしっかり理解して使う人もいます。それは多くの場合、あなたを本気でしかってくれる人の中にいることが多いです。
その人は、あまり常識という言葉を使わないかも知れません。それは、常識の持つ二面性や曖昧さを理解しているからです。
言う人の言葉は心にとどめて、なぜ?しかられたのかをもう一度自分で考えて見た方が良いでしょう。
そこには自分を高めてくれる、普遍性が潜んでいる可能性があるからです。
いかがでしたか?
常識には二面性があり、表現として曖昧さを含んでおり、常識には揺らぎがあります。
常識にとらわれすぎないことが必要であり、普遍性を含んだ常識があります。
それを心にとどめてください。
まとめ
常識とは何?おまえ、常識がないと言われた
- 常識の揺らぎ(知識の常識)
- 常識の普遍性(道徳の常識)
- もう一度「常識とは」
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